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冬の夜長に、中空竿とレプリカロッド、そしてフライフィッシングについて考える・・・その3 [バンブーロッド "Bamboo Rod"]

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フライロッドのアクションは個人の嗜好というか、ひとりひとりの好き好きの問題ですので、竿の善し悪しをあげつらってもあんまり意味はないのですが、僕個人の意見としてはフライロッドは釣り竿であるべきだと考えています。

釣り竿とは、魚を掛けて、獲る。
その両方の機能を備えていて、はじめて「釣り竿というモノ」になると。

フライロッドの場合はキャスティングとランディングということになりますが、その両方の能力を高いレベルで備え持っている必要があります。
歴史的名竿と呼ばれるフライロッドはその辺りのバランスが非常によくできています。
名竿とは、なにも、突出した能力を持った釣り竿じゃありません。
"Payne"や"Young"が作った一群のフライロッドの中にあるクラシックロッドの名竿と呼ばれる竿を振って釣りをしてみたらわかるのですが、これらは「なんだ~こんなのなの・・・」って拍子抜けして思うほどの、投げやすく釣りやすい「フツ~の竿」です。

ただし、その「フツ~さ」は簡単に得られたものではなく、その「フツ~さ」、ナチュラルなフィーリングを創りあげるために、過去のロッドメーカーは膨大な時間を試行錯誤に費やしてきました。
その歴史的蓄積がクラシックロッドの名竿と呼ばれる竿となって結実したのです。

 

さて、このことはちょっと置いておいて、この国におけるバンブーロッドの状況を時間の流れと共に振り返ってみたいと思います。

時間を無意味に遡るのも意味がありませんので、約30年ほど、つまりこの国でバンブーロッドが作り始められた1980年頃に戻ります。

そう、この国にはまだアメリカのバンブーロッドとクラシックロッドの状況が正確には伝わっていなかった頃。
「レナードの赤巻きがえらかった」時代です。

ちょうどレナードというメーカーがおかしくなって会社が無くなった頃、この国で手に入るバンブーロッドと言えば"Orvis"と"Thomas & Thomas"そして"Pezon"ぐらいだったと思います。
またグラファイト素材を使ったフライロッドが一般化してきた時代でもありました。
当時最先端で憧れの的だったのが"Orvis"と"Scott"のグラファイトロッドです。

実際のフィールドではほとんどの人がグラファイトロッドを使っていました。
たまにバンブーロッドを振っている人を川で目にすると、ほぼ100%といっていい確率で、『"Pezon"な人』でしたね。

現在のように川を歩いていると「フライで釣っている人のほぼ半分ぐらいはバンブーロッドを使ってるんじゃないの?」なんていう状況が来るなんてことは想像もつきませんでした。

 

その頃この国で作り始められたバンブーロッドは、アメリカのバンブーロッドとは別系統だったと考えた方がいいと思います。

というのは、当時のアメリカではバンブーロッドはクラシックタックルとして、実用品としてというよりは骨董品や装飾品の範疇に入っていて、ほとんどステータスシンボルやある種のお飾りのように考えられていたようです。
バンブーロッドを作るメーカーも減っていく一方で、かといって新世代の個人ビルダーが増えてくるのはまだまだ先のことです。アメリカにおいてもクラシックロッドのテーパーデータはもちろん、バンブーロッドを作るにあたっての情報も極めて乏しい状況でした。

そういう状況のなかで、この国のバンブーロッドは約25年程前にフライロッドを作るための伝統も技術の蓄積もないところから突然始まったと言ってもいいと思います。
(六角竿は第二次世界大戦後に駐留米軍の将兵相手のスーベニールとして盛んに作られていたようですので、スプリットケーンの竿を作るという技術はあったのでしょうが・・・)

確かにグラスロッドよりはバンブーロッドの方がフライロッドとしての性能はよかったと思います。
ただし、それには条件が付きます。
一般的なグラスロッド』よりは『高級なバンブーロッド』の方が・・・、です。
ところがグラファイトロッドがリーズナブルな価格で一般化した時点でそれさえ危うくなってしまいました。

グラファイトの方が性能がいいのは当たり前なんだけど、見た目や雰囲気がいいから、と言う理由だけで僕はバンブーロッドを使っていました。
だって、本気で魚が釣りたいときはグラファイトロッドを持って行きましたからね。
それは、おそらく僕だけではないと思います。
極論すれば性能なんて二の次、三の次で、バンブーロッドは見てくれさえよければよかったんですよ。

(その考えは「バンブーという素材の特性を生かし切った、本物のバンブーロッド」を使ってから劇的といっていいほどに変わったのですが、それは、また後のことです・・・)

なんだかんだあって少し時代が進み、1990年代のフライフィッシング・ブームと共に釣り竿としてのバンブーロッドの良さが見直され、アメリカのクラシックロッドとわずかに残った有名なメーカーが作るバンブーロッドの価格が高騰していきます(高価なバンブーロッドを買うことができる金持ちが増えただけ~、と言うシニカルな見方も出来ますが)。
そんな状況の中で、この国でもフライフィッシングのブームが巻き起こり、もともとの日本人の嗜好にも合っていたのか大量の国産バンブーロッドが製作され、そして販売されました。

「この国の渓流用のバンブーロッド」です。

僕も便宜上、フライロッドを「トラウトロッド」と「この国の渓流用のフライロッド」と書き分けることがありますが、ほんとうはココにも問題が潜んでいるんですね。
書き分けることによって「トラウトロッド」と「この国の渓流用のフライロッド」の間になにか大きな違いがあるように感じてしまうわけです。
あげくの果てに「トラウトロッド」と「この国の渓流用のフライロッド」は違うんだ、とまで演繹してしまう。

いろんな意味で、この国で作られてきたバンブーロッドは、そんほとんどが「この国の渓流用のフライロッド」だったわけです。
小規模な流れに小さな渓流魚しか住んでいないこの国の渓流で、ショートレンジで小さな魚を釣るためのフライロッドです。
こういう状況では、フライロッドのよし悪しって独特なモノになりがちなんですよ。
そして拙いことに、屁理屈も逃げ道も作りやすい。

「この国の魚に合わせて作っていますから」とか、
「使いこなすのが難しいですが、そこに味があるんです」
なんて言葉、聞いたことはありませんか?
なんとなく説得力があるような・・・

もうひとつは、コレは買う方の問題。
ショップで竿を買うときに、竿の外観的な仕上げの善し悪ししか見ない客や、繋いでみてただ真っ直ぐであればよくできている、逆にちょっとでも曲がっているとそれだけを欠点のようにあげつらう人。

まあ、多くのショップではバンブーロッドはガラスのショーケースの中にうやうやしく入っていて、簡単には繋いで振ってみることも出来ない、という売り方にも問題はあったのですが・・・
手袋をして触る店員がいたとか、いないとか、っていう笑い話まであったようです(笑)

それらが結果的に間違った方向へと、この国のバンブーロッドを引っ張り込んでいってしまったんだと思います。

フライロッドはフライロッドという名の道具なんですよ。
使いやすくて、気持ちよく使えてなんぼ(価値がある、って意味)なんですね。
まあ、自尊心を満たしたり誰かに自慢するために、値段が高くって見てくれがカッコよければ機能なんてどうでもいい、という人もいらっしゃるのでしょうが・・・

 

優れた道具としてのバンブーロッドが、この国でも当たり前のように作られるようになってきたのは、ここ数年のことだと僕は理解しています。

この変化に大きな影響を与えたのは、バンブーロッドの作り手が自らのフライフィッシングの経験を積み重ねてきたことと、クラシックロッドの名竿を実際に手にすることが出来るようになったこと、そしてネットなどを利用した情報の共有だと思います。
なかでも、いちばん大きな影響があったのは、バンブーロッドとその製作に係わるさまざまな情報のワールドワイドな規模での公開と共有だったのではないでしょうか。

もうひとつは、レプリカロッドに対する考え方の変化です。
少し前までは、ただ外観をコピーしただけのモノがほとんどだったということもありますが、レプリカロッドは際物というか、まがいもの扱い、ヘタすると偽物扱いされていましたよね。
それが最近は変わってきた。
レプリカロッドが積極的に評価されるようになってきたような気がします。
それは外観や机上のテーパーのコピーではなく、クラシックロッドの機能的な本質を再現できる技術を持ったビルダーが育ってきたということなのでしょう。

この辺りにも、ネット社会の知識の共有化という「コト」が、その結果として製品という「モノ」を生み出し始めたという最近の現象がよく現れていると思います。


でもね~、
これまでに作られてきた機能的にちょっと問題のあるバンブーロッドが、いまや大量に「ツカエナイ」不良在庫として個人や市場にだぶついているわけです。

コレはいろんな意味で困った問題に繋がっていくのですが・・・(--;)


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